今よりも一歩前へ。
新たな取組みへ挑む背中が
次世代の漁師を育てる
たくさんの出会いと
高まる漁師たちの気持ち
日本全国、そして世界中からの支援をいただき、北は久慈、南は陸前高田まで各港に約180隻の支援船を浮かべることができました。まだあと63隻、支援待ちの漁師さんがいるので、今は一旦漁師さんの応募は締め切らせていただきましたが、引き続き支援者を募っている状況です。
復興の過程でやはり、まちおこしに繋がるビジネスが絶対必要になってくると思っていました。もともとファッション業界にいたこともあり、ファッションと漁師さんとでコラボレーションできないかという思いではじまっているのですが、震災から5年目を迎え、漁師さんたちにもそういう思いが出てきたなというのが、被災地で頑張っている漁師さんたちの印象です。世界中から支援をしてもらい、色々な方に出会っていくなかで「俺がやってやるぞ」という漁師さんたちが、どんどん増えていった。最初は「昔に戻りたい」と言っていた人も、もう一歩先、「もっとこういうこともやってみたい」と思うことが増えたんだと思います。とくに、若い漁師さんたちはチームを組んで様々なことにチャレンジしていく。そこに私たちもできるだけサポートや情報を促していくことが必要だなと感じています。ただ、その一方で昔の状態に戻ったまま、あるいは昔よりも状況が悪くなってしまっている漁師さんたちもたくさんいらっしゃいます。今後はそういう人たちも一緒に盛り上げられるように、活動を続けられたらなと思います。
本当に美味しいものを届けたい
プロジェクトは次のステップへ
震災で1万6000〜7000隻の船が失われ、今は約1万2000隻が復活している状態です。しかし、せっかく船を持って漁に出ても、なかなか魚が高く売れない。いくら捕っても全然給料にならない状況の漁師さんもすごく多いんですね。新鮮な魚を50円でも100円でも高く売る方法はないかとずっと相談されていました。「AD BOAT PROJECT」活動を通して、180人の漁師さんと繋がることができました。ならば、「AD BOAT PROJECT」で全国の飲食店や家庭に直送できる仕組みをつくれるのではないかと考えました。船の支援をしておしまいではなく、そこからさらに彼らのビジネスを支援するということが、プロジェクトの進むべき方向です。漁師さんたちには、自分たちが揚げたタコやアワビ、ウニを携帯カメラで撮影して動画配信してもらい、それを見たお客さんに新鮮なものを買ってもらう。今、漁師さんと打ち合わせしているのは、「復興支援ではなく、本当においしいものをきちんとした状態で届けないといけない。情で買ってもらっても仕方ない。本当においしいものを届ける仕組みをつくりましょう」ということです。今年中に、漁師さんが直送する「AD BOAT FISHERMAN’S DIRECT」をウェブサイトで立ち上げる予定です。
ロゴが記された復興支援船は、これまでの漁船のイメージとは異なり、スタイリッシュな印象。これも漁業を盛り上げるための菅原さんのアイデア。
2012年7月7日、岩手県小石浜で行われた支援者と漁師たちの交流会。AD BOATに関わる人々が集い、ここからまた新たな繋がりが生まれていく。漁師が元気になれば街は元気になる。
(取材日:2016年8月)
photo:hana ozazwa
菅原 誠(すがわら・まこと)
菅原靴店店主/AD BOAT PROJECT発起人。1974年岩手県盛岡市生まれ。盛岡市内でイタリア靴を主体とした店舗を経営。震災後、沿岸部の主幹産業であった漁業復興のため「AD BOAT PROJECT」を立ち上げる。仕事柄海外とのコネクションも多かったことから、国内外で広く支援を募り、「AD BOAT PROJECT」をPR。沿岸部に浮かぶ復興支援船には、国内外問わず数々のファッションブランドロゴが記されている。