一歩下がった支援
究極の目標は
自分たちがいなくなること
岩手最大のボランティアセンターが
誕生した理由
震災直後からボランティアセンターが各地域で立ち上がり、2012年1月までに92万人以上の人々がボランティアに参加している(全国社会福祉協議会「災害ボランティアセンターで受け付けたボランティア活動者数の推移」より)。岩手県遠野市に拠点を置く『特定非営利活動法人 遠野まごころネット』は、岩手最大のボランティアセンター。三陸沿岸部まで車で1時間という遠野市内に事務局と宿泊施設を構え、約4万8千人(2012年1月17日現在)のボランティアを受け入れてきた『遠野まごころネット』だが、そのはじまりは2011年3月13日にさかのぼる。
「震災から2日後、ありったけの物資を積んで現地に入りました。大槌町の災害対策本部で地図はないかと尋ねたら、壁に手書きの地図らしきものがあったんです。それでまずは地図をつくらなければと思い、2日間でどこの避難所にどれぐらい人がいるのかを調べて避難所マップをつくりました。とにかく”できることをやろう”と動きはじめて、そのまま現在の活動にいたっています」
沿岸部でニーズを調査しながら支援物資を届ける中で、ボランティアらしき人々の車が瓦礫で狭くなった道路を塞いでいる光景を度々目にした。そうした車が増え、道を塞いで活動の妨げになってしまうのを危惧した多田さんは、積極的に個人ボランティアの受け入れをはじめたのだ。
「現地に入って”自分たちだけでは絶対に無理だ”と感じたことと、現地に人や車が溢れないようにするために呼びかけました。現地を善意・人の洪水にしてしまうと、現地が披露してしまいます。そうならないために、遠野に個人ボランティアを集めてチームをつくり、入ってはいけないところには行かない、現地に人や車が溢れない状況をつくりました」
個人ボランティアの受け入れだけでなく、約70もの団体と連携して瓦礫の撤去や心のケアなどの活動から、地域のサポート、コミュニティ支援も行う『遠野まごころネット』では、”地域の人がやりたいことを一緒に行う”というスタンスを守ってきた。瓦礫の撤去を行う際には必ず家主に立ち会ってもらい、ときにはあえて少人数のスタッフで現場を訪れて地域の人を主役にする。その背景には、多田さんのある想いがあった。
「究極の目標は、自分たちがいなくなること。私たちは自分のために活動しているわけではありません。自分を第一にしないこと、地域の人たちがやっていけるように”一歩下がった支援”をしていくこと、仲間やパートナーの力を十分に出せる体制をつくることを大切にしています。必要がなくなれば、解散すればいいだけのことなんです」
私たちはサポート役
“つくる”わけにはいかない
現地を歩きまわって避難所マップを作成してから約1年。これまでの活動を振り返りながら、多田さんは”苦労したという意識はない”と語る。
「ボランティアは競争じゃないので勝ち負けではないのですが、気持ちが折れてしまったり、負けてしまったりすることがあると思います。でも、気持ちが負けてしまうとみんなが活動できません。そうならないために、”勝たなくても負けない”という気持ちを基本にしているんです。今、現地の人たちも色々と考えて自分たちの町をつくっていこうとしています。私たちは”住民の方々がどういう町にしたいのか?”ということをたくさん聞いて、一緒にできることを考える。私たちがつくるわけにはいかないんです」
その町に生きる人が、やりたいこと、つくりたい町をイメージする場所をつくること。そして、”被災地”という限定された視点で行う支援ではなく、公共も民間もすべて含んだ”地域”を対象に関わっていくこと。それこそが『遠野まごころネット』の活動であり、多くの団体とネットワークを結んでいる理由だ。今後さらなる支援を被災地に送るため、2011年12月13日には『遠野まごころネット 東京事務所』もオープンしている。
「防潮堤を建てるといった復興プランが出されていますが、もっと自然と共存するような計画も考えなければいけないと考えています。そのためには、全体的に色々なことを検証しないと良いビジョンはできませんし、良いビジョンができないと制度ができていきません。さらに、制度に関しても”つくる・使える”だけではなくて、”使う気になる”制度をつくらないといけない。住民の方、行政、私たちのような後方支援の人間が意見交換をできるようにして、良いビジョンをつくることが大切だと思います」
取材日:2012年1月19日 岩手県遠野市にて
遠野市浄化センター内にある『遠野まごころネット』の拠点。事務局とボランティアの宿泊施設があり、全国からボランティアが訪れている。