動き出す街の音

2014年11月21日

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世代を超えて残る街

 宮城県石巻市に移り住んだのは2011年末。全半壊の家屋が街中に多く残っている中、幾つかの飲食店がようやく再開し始めた時期だったのではないでしょうか。
いくつかの役割を終えた翌年4月からもこの街に残ろうと決め、現在に至ります。なぜこの街に残ろうかと思ったのかと言うと、不謹慎かもしれませんが、アーティストという職能の立場で、この街が再編成されていく過程をこの地に住みながら体験したかったからです。
 これは、ここで作品を制作していきたいというわけではなく、アーティストという、言わば中性的な立場で実際に生活し、街の変化を感じたかったという言い方が的確なのかもしれません。
 この3年弱の期間を振り返ってみると、建物を壊す音から、建物を作る音にと、徐々に徐々に、希望が持てる音に変わってきたなと思います。
 これは地域によって大きく異なると思いますが、私が拠点としている、石巻市の中心市街地では、2012年の夏頃をピークとして建物を壊す音と重機の振動音が響き渡っていました。つまり、何を壊しているかというと、建物としては津波に耐え、崩れる事のなかった建物までもが、様々な事情により解体されていったのです。解体が済んで更地になった風景をみながら、この土地に住んでいた人々の生きてきた証さえも、なくなってしまったように感じていました。
それが今年になって、少しずつですが、建物と共に人々の営みが着実に戻ってきたように思えます。
 ここに建物が、再び建てば、コミュニティーが再編され、そしてコミュニティーが集まり、再び街の姿を取り戻すことでしょう。しかし街は私たちの世代を超えて、この地に残り、後世に受け継がれていきます。
 そんな今だからこそ、同じ街の生活者であるアーティストとして、豊かなビジョンを提示することによって、この街に寄与できるのではないかと思っています。

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家庭料理から地域固有の文化や魅力を見つける「食堂プロジェクト」

作品を通して
地域と寄り添う

 普段の作品としては、ひとつの視点=キーワードを軸に領域横断的に制作しています。昨今代表されるのが「食堂プロジェクト」と呼んでいる作品です。この作品では、各地域で食べられている日常の家庭料理をリサーチし、その背景にある個々人の出自や、その地域の持つ固有の文化や魅力を探索することによって、街の姿や記憶を記録しています。アウトプットとしては、ブックレットにしてアーカイブとしての役割をもたせたり、インタビュー映像を映像作品としてインスタレーションしたりしています。

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©Google
海からのストリートビュープロジェクト

 また最近では、グーグルが行う「海からのストリートビュープロジェクト」というプロジェクトと共同して、宮城県塩釜市は浦戸諸島と呼ばれる島々の情景を海から撮影し、現在の島の姿を記録しました。震災から3年半が過ぎた姿。そのストリートビューの映像からは、未だに更地となり、多くの建機が見える集落の様子。それとは裏腹に、既に震災の爪痕すら想像できないくらい治癒してきてるい自然の姿を対比することができます。そして何より、その環境の中で、人々が海を仕事場として共存している姿を見ることができます。
この対比できる情景をストリートビューとして、全世界で共有することは大変貴重な仕組みだと思います。
 私には、直接的に街や社会を変えるような役割を担保することはできませんが、この様にして地域と寄り添いながら作品を制作していることが、こういった地域を拠点にするアーティストの役割だと思います。

文:増田拓史(ますだ・ひろふみ)
1982 年生まれ。横浜美術短期大学卒業。横浜を拠点に活動した後、現在は宮城県石巻市に拠点を置き活動している。特定のコミュニティや地域をリサーチし、作品を制作している。その手法として近年では、日常の家庭料理にフォーカスをあて、個々人の出自や地域性を再発見し後世に伝える食堂プロジェクトを、地域の方々と協働しながら展開している。主な活動に、2014年「大館食堂/大館・北秋田芸術祭2014」(秋田)、2013〜2014年「前橋食堂/アーツ前橋地域アートプロジェクト」(群馬)、2011 年「代官山食堂/代官山インスタレーション 2011」(東京)、2011 年「黄金食堂 / 黄金町バザール 2011」(横浜)、2010~2011 年「Treasure Hill Artist Village Public Art Project」(寶藏巖国際芸術村 )。

 

今月の読み物

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