自然エネルギーへの転換。会津が推進的役割を担う覚悟

*この記事は「わわ新聞14号(2015.8発行)」に掲載されたものです。紙面記事はこちら

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わわの人インタビュー vol.15

五十嵐乃里枝(いがらし・のりえ)
三島町議を2期務め、2013年から三島町保育所の所長に。一般社団法人会津自然エネルギー機構 代表理事。会津電力と連携し、自然エネルギーの普及にも深く関わっている。

 

「ありえない事故」で傷ついた故郷のため、できることをする

「会津の私たちに何ができるのか」。内陸部の会津は、東日本大震災による地震被害はほとんどなく、放射線量は少し上がったが、ほどなく落ち着いた。4人の子どもと3人の孫の健康や食べ物に気を配りながらも、会津に残ることを決めた時から「ここに残った者としてやるべきことがあるのでは」という思いが消えなかった。

 住んでいる三島町は山あいにあり、冬は雪が深い。2010年の正月、4日に及ぶ停電があった。水分を含んだ重い雪で山林を通る送電線が複数個所で断線したため、修復に時間がかかり、地域の人たちは反射板ストーブや湯たんぽなどで暖を取った。たびたび起こる冬の長い停電は、林業者が減り、山が荒れていることも原因の一つだった。電気を遠くから持ってくるのではなく、身近なところで作ることができないかと何人かが考え始めた頃、大震災と原発事故が起こった。

「自分も含めて、原発に危険性を感じていながらも真剣に考えていなかった人は多かったと思う。でも事故が起きて、原発は一部の既得権益のために多くの犠牲を強いる脆弱なテクノロジーであり、たった一度の『ありえない事故』で、大切な故郷の自然が大きく傷つけられることもわかった。もう『知らない』ではすまされない」

 原発依存の歴史や現状を勉強する中、飯田哲也さんや「ブレーキが壊れたダンプカー」と称されるほど猛スピードで前進し続ける佐藤彌右衛門さん、思いを同じくする仲間たちと出会った。福島において、会津が新たなエネルギーの推進的役割を担うことを理念に掲げ、一般社団法人会津自然エネルギー機構が2013年7月に設立されるとメンバーに。翌年の会津電力設立時に社長に就いた佐藤彌右衛門さんから、代表理事を引き継いだ。2期務めた町議時代、「発言するだけでは地域は何も変わらない」と実感していたからだ。以後、現実的な事業体として発足した株式会社会津電力と連携しながら、事業を進めている。

社会の仕組みと恩恵を 自分たちの手に取り戻す

 「原子力から自然エネルギーへの転換」には、太陽光や小水力による発電を進めるだけでは十分ではない。“人任せ”だったことを省みつつ、社会の仕組みを自分たちの手に取り戻し、そこに関わる人たちに恩恵が行き渡る方法を考えている。石油を買ったお金は産油国や石油メジャーを潤すが、地域の山で切り出した薪を買えばきこりや山主にお金が届き、地域が豊かになる。グローバル経済に加担するのではなく、ローカルにお金を回すためにも、エネルギーを作り出す設備は自分たちがコントロールできるサイズで、手の届く場所に置くことが必要だと考えている。

 震災間もなく、栃木県那須野が原の小水力発電事業の取り組み視察に訪れた人達が中心となって立ち上がったNPO法人会津みしま自然エネルギー研究会は、三島小学校近くの側溝にマイクロ水力発電設備を設置し、子どもたちと実験を繰り返している。自然エネルギー機構では昨年から、荒れきった里山の再生ととバイオマス発電に向けた人材育成のために、昨年から、きこりプロジェクトを展開している。月1回程度、行われる間伐などの山の手入れ、チェーンソーなど山の道具の扱いを学ぶ実習や伐採見学会には、会津農林高校森林環境科の生徒や、関東から“林業女子”が参加することもある。「たとえば、木こり学校に来た高校生の中の一人で地元の林業に就いたら、その一人から世界が変わり始める」。そんな思いで、“新たな一歩”を期待している。

 震災から4年が過ぎたいま、お母さんたちの放射能に対する意識が「諦め」か「不安か」の両極端になっていることが気に掛かっている。「大きな不安と、どう向き合うか。不安をいたずらに膨らませるのも違うし、そこにある不安を『ないもの』とするのも違う。知ることで防げることもあるから、お母さん達と話す機会も作っていきたい」。お母さん達を支えることで、地域の深い部分から支えていくつもりだ。

 時折、何十年か後に子どもや孫たちが振り返った時のことを想像する。「あれだけの事故が起きたのだから、変わらなければいけない。私たちの動きを『あれが転換点だったね』と言ってもらえるように、どんなに遅々としていようが歩みは止めない。決してあきらめない」。足跡を残すため、日々、奔走している。

 

わわ新聞vol.15「エネルギーデモクラシー」紙面はこちらからご覧ください。

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